がんとミトコンドリア(その1)トコンドリアの低下が認知症の一因ミトコンドリア
■ミトコンドリアの低下が認知症の一因
|
そもそもミトコンドリアとは、なんでしょうか。 ミトコンドリアとは、私たちの細胞の中にある小器官の一つで、細胞全体の10~20%を占めています。
細胞によっては、100~3000個のミトコンドリアが含まれており、さまざまな役割を果たしています。 その中でも最も重要な役割が、エネルギーを作り出す働きです。
ミトコンドリアでは、食事から摂取した栄養と、呼吸から得られた酸素を使って、ATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを放出する物質を作り出します。
ジョギングを始めると、同じ距離を走っても、最初のうちはとてもきつかったのに、走るのに慣れてくると、それほどきつく感じなくなります。
これは、運動によってミトコンドリアが増え、呼吸で取り込む酸素量はいっしょでも、効率的に酸素を使えるようになったためです。
最初は、エネルギーを生み出すのに必要な酸素を無駄にするため、ハアハアと息を切らします。
しかし、走ることで体内のミトコンドリアが増えてくると、エネルギー代謝がよくなり、酸素を有効に使えるようになるので、息を切らさずに走れるようになるのです。
近年の研究で、ミトコンドリアは、私たちの健康や老化の問題と、非常に深い関連があることがわかってきました。
年を重ねるについて、ミトコンドリアの量は次第に減ってきます。 また、ミトコンドリアには、質の良いミトコンドリアと、質の悪いミトコンドリアがありますが、年をとったり、悪い生活習慣などが続いたりすると、質の悪いミトコンドリアがふえていきます。 それが、私たちの老化のスピードにも大きな影響を及ぼすのです。
ミトコンドリアの数が不足したり、質が低下したりすると、作られるエネルギーが不足します。 少ないエネルギーは、まず第一に呼吸や体温調節など、生きるためにどうしても必要な部分に優先的に使われます。 この結果、若さを保つために働いている老化防止機能や、遺伝子の修復作業などを行う長寿のためのシステムに、エネルギーが十分に回されず、それらのシステムがちゃんと機能できなくなります。
それが、老いや、ガンなどの病気につながってくるのです。
最新の研究によれば、ミトコンドリアの生み出すエネルギーの低下が、認知症の原因の一つとなっていることも分かってきています。 つまり、ミトコンドリアの量と質をよくしてやることによって、私たちは、エネルギーを作る能力をアップさせることができます。 それによって、体力がアップするだけでなく、年をとってもなお若々しく、健康な体を維持することが可能になるのです。
脳の問題に戻れば、脳のミトコンドリアが増えると、脳が使えるエネルギー量がふえ、認知症を予防するばかりではなく、集中力が増したり、発想力が豊かになったり、脳の機能全体がアップしたりすることも期待できます。
|
■運動前はできるだけ食事をとらない
|
では、どうすれば、ミトコンドリアを増やせるでしょうか。 それには、体にエネルギーを必要としていることを分からせることが重要です。
そのために、いくつかの方法があります。
■ややきつめの有酸素運動
まず、お勧めしたのが、ややきつめの有酸素運動です。 有酸素運動とは、酸素を使って脂肪を燃やす運動で、ランニングなどのことです。
普通は、体が脂肪燃焼を始める有酸素状態になるまでに、30分かかるとされていました。 1時間運動しても、有酸素運動となるのは、後半の30分だけ。 前半の30分は、その準備時間にすぎないことになります。 こういうと、釈然としない気持ちになる方も多いでしょう。
そこで、次のようにしてみましょう。
①初めに、30秒ほど小走りで走ります。 ②次に、脈が整うまで1分ほど歩きます。 ③30秒ほど小走りします。
これを繰り返すと、5分ほどで汗が出てくるでしょう。 こうすることで、短時間のうちに有酸素運動に入ることができます。
有酸素状態に入ったら、あと30分程度ジョギングやウォーキングをすればいいのです。
もちろん、有酸素状態に入る為の準備運動は、走ることだけに限りません。
5分程度行うと、汗が出てくるというのが一つの目安ですから、その目安が達成できるのなら、ダンベル運動でもかまいません。
ちなみに運動をする際には、その前になるべく食べ物を摂らないようにした方がよいでしょう。 体を、エネルギーが枯渇した状態にしたうえで運動することで、ミトコンドリアがより増えやすくなります。 ただし、糖尿病でインスリンを投与されている方は、低血糖状態にならないように注意してください。
■寒中水泳・サウナ後の水ぶろ
寒いところで運動することも、ミトコンドリアをふやす効果があることもわかっています。 寒さを感じると、体は、「エネルギーが必要だ」と判断し、ミトコンドリアをふやそうとするのです。
剣道や柔道などでは、冬の時期に、しばしば寒稽古が行われます。 また、なかには寒中水泳をした経験のあるかたがいらっしゃるでしょう。
寒稽古や寒中水泳を行っていると、体がポカポカとしてきます。 これこそ、ミトコンドリアが活性化している証拠です。
マウス(実験用のネズミ)を使った実験から類推すると、12度の水に10分つかっていると、ミトコンドリアがふえることがわかっています。 とはいえ、寒中水泳や寒稽古は誰でもが気軽にはできません。 代わりに、手軽にできる方法を紹介しておきましょう。 それは、サウナに入ったあと、水風呂に入るという方法です。 最近は銭湯が少なくなってきていますが、サウナ付きの銭湯なら、必ずといってよいほど、水ぶろがついているはずです。 サウナに入ったら、ぜひ水ぶろに入ってみましょう。
サウナに入ったあと、水ぶろに入ったときと、入らなかったときを比べてみてください。 水ぶろに入ったときのほうが、あとで、体がポカポカしてきたはずです。 これも、ミトコンドリアが活性化していることを示しています。 水ぶろによって体が冷やされると、ミトコンドリアをふやす量産体制に入るのです。
水ぶろに入るのが難しい方は、家庭で入浴後、足先に水シャワーをかけるだけでも、効果が期待できます。 ただし、寒中水泳や水ぶろは、高血圧や心臓に異常がある方は避ける、などの注意が必要です。
■週末のプチ断食
食生活の面では、どんなことが勧められるでしょうか。 ミトコンドリアをふやすためには、空腹感が最も大切であることがわかっています。
そこで、お勧めしたいのは、週に1、2度のプチ断食です。 これは、それほど難しくありません。
例えば、平日は、ふだん通りの食事をします。 それで、週末の1、2日だけ、3割程度、摂取カロリーを減らせばよいのです。
例えば、朝は野菜ジュース、昼はざるソバなどの軽食、夜も、軽めの夕食にします。
実際にプチ断食を経験した方に聞くと、いずれも体調がよくなったといいます。 ただ、断食が終わったあと、いきなり普通の食事に戻すのはよくありません。 徐々に、食事量をふやしていくといいでしょう。
それに、食事の際には、早食いは禁物です。 早く食べることで、老化の原因となる活性酸素を作り出してしまうからです。
ですから、活性酸素を余分に生み出さないためにも、一食に30分以上かけるつもりで、できるだけゆっくり食べるのがいいのです。 ■背筋を伸ばす、片足立ちをする
ほかに、日常生活で試みてほしいのは、背すじをよく伸ばすことです。 座っている時も、立っているときも、背すじをピンと伸ばすようにしましょう。
というのも、ミトコンドリアは、筋肉の中に多く含まれているのですが、姿勢を保つための筋肉、ことに背筋と太ももの筋肉に、ミトコンドリアがたくさん含まれているからです。
そこで、日ごろから背すじをのばすように注意してください。 パソコンの前に座っているときは、ついつい体をパソコンのほうへ前傾させて、猫背になりがちですが、これは、ミトコンドリアがの問題を抜きにしても、勧められる姿勢ではありません。 できるだけ、いすの背もたれと背中を平行に保つようにしましょう。
また、片足立ちも有効です。 片方の足を1分ずつ、片足立ちをすることで、普段より倍の負荷(体重)を、体に与えることができます。 同時にバランス感覚も鍛えられます。 曲げているほうの足を持って、行うといいでしょう。
足腰が弱っている人は、転倒に注意して、短い時間から行いましょう。
立っている時も、「頭から糸でつられているようなイメージ」で背中の筋肉をピンと伸ばします。 こうして、日常的に美しい姿勢で暮らすことが、ミトコンドリアを持続的にふやすことに役立つと考えてください。
実際、いろいろな条件下でミトコンドリアの量を計測して、わかってきたことがあります。 それは、適切な運動などを続けると、短い期間でミトコンドリアがふえて、端的に効果が現れるということです。 一日2時間の運動を一週間続けると、30%程度、ミトコンドリアの量がふえることが、人の臨床的な実験からもわかっています。
つまり、ミトコンドリアというものは、このような運動を一週間続けるだけも大きな変化が現れるのです。 その点を励みとして、ぜひお勧めした方法にチャレンジしてみてください。
私たちはいつか老いと闘わなければならない。そう感じている人も多いことでしょう。 私たちの体には、生まれつき「若くなるための機能」がそなわっています。
「若くなるための機能」とは、ミトコンドリアによるエネルギーを作り出す能力と、
そのエネルギーを使って老化によって生じる不具合を治していく力のことです。
私たちは、この能力を十全に引き出すことを目指すべきではないでしょうか。
|